化学教師の言葉

化学教師はとても変わっていました。

肝心の授業はそっちのけで授業の半分が一方的な雑談でした。

「肉は食べちゃいけない、加工肉のハムやウィンナーは合成肉が入っているから絶対に食べちゃいけない」

とよく言っていました。

偏った考えの持ち主でした。

 

風貌も変わっていてブラックジャックに出てくる『お茶の水博士』に似ていたので、私たちはお茶の水、と呼んでいました。もちろん生徒間のみで。

 

雑談が多い先生の話は面白いと感じる事も多く聞いていて楽しいものもたくさんありました。

雑談は授業に比べ生徒受けも良い、と感じていたのか耳を傾ける生徒も多かったです。

先生も話甲斐があったと思います。

 

先生のいつもの思い出話の中で

「昔、授業をしていたら突然生徒が泡吹いて倒れたことがあった。自分は慌てたが他の生徒が、大丈夫だよ、そいつそのうち普通に戻るから、といいやがった。そしたら本当に普通に戻って何事もなかったように授業を受け始めた。あれはすごいびっくりした。目玉飛び出そうだった。てんかん、って言うらしいんだか、あれは今は差別用語なのか?頭の病気なのか?あの怖い光景は忘れられないぞな。」

 

その話はお茶の水の18番だったのか相当インパクトがあったのか、ハタマタ生徒の聞く姿勢が違うと感じたのか何度も話してきました。

 

私はうつむいてその話の都度、気圧の高いところで耳抜きをするような感じで小さな声でアーアー、と言いバレないように聞こえないよう努力していました。

病気を知っていた友人たちが私のことを気にしてくれて授業終了後、職員室へ行き担任に怒りの抗議をしてくれました。

担任も看護師だったので怒り爆発、お茶の水に大抗議をしてくれたようです。

そして私を慰めてくれました。

「大丈夫よ、もう絶対言わせないからっ」

すごく泣いた記憶があります。

 

その後、お茶の水が病気の話をすることはなくなりましたが、最後に

「この前お前たちの担任に叱られたが病気の話は良くないんだな、俺はあの泡吹いて倒れた話は、怖い光景だけど良くあるからお前らも慌てるなって言いたかっただけなんだけどな」

と言っていました。

病気を知っている友達が授業の度お茶の水を睨みつけていました。

怖い光景、という表現が悲しかったです。

お茶の水は本当はどういう気持ちで言ったのかわかりませんが、当時17歳の私は傷ついていて、でも親にも言うのもなんとなく悪いなと思い苦悩していたことは確かでした。